私の部屋は結婚後もそのままにしてある。
本も調度品もまったく同じ配列なのは、母の想いがこめられているのだろう。懐かしい空間にたたずむと、いつもより記憶が冴えわたる気がしてならない。
昨日もアルバムを紐解き、幼い頃の私に向き合った。ふと同い年の従姉妹と撮ってもらった写真に目がとまった。彼女は私とまったく違う性格で、何をしても優等生だった。高校では同じクラスになり、自己紹介で彼女が私の従姉妹であると告白したとたん、級友たちの驚きの声があがったくらいだ。その写真は2歳ぐらいだと思う。彼女と私はお菓子の入ったバスケットをもっている。彼女はピンクのバスケット、私は赤いバスケットだ。私の記憶では、彼女のピンク色のバスケットが羨ましくてならなかった。赤ではなくピンクが欲しかった。今でもその時の状況を鮮やかにdownload出来る。しかしセピア色の写真を見て驚いたのは、従姉妹が私の赤いバスケットをじっと見ていたことだ。そうか、彼女も私のバスケットが欲しかったのだと知り、長すぎた欲求不満の氷塊が溶けていった。